まとめて読んだのでまとめて感想。内容はまとまっていない。
敵は海賊 正義の眼」「永遠の森 博物館惑星」「オレインシュピーゲル」「キリンヤガ」のネタばれやも知れないので御注意。

敵は海賊・正義の眼 (ハヤカワ文庫JA)

敵は海賊・正義の眼 (ハヤカワ文庫JA)

 今までの「敵は海賊」シリーズに比べると、ボリューム(ページ数)的には変わらないけれど*1、ライトな印象だった。話に割合深く絡む登場人物が多かったことと、ヨウ冥側の登場人物が少なかったこと、最後のまとめが急ぎ気味だったあたりを「ライト」と感じたのかも。冒頭のモーチャイの人生観はダウン気味のときの自分に当てはまりすぎていて、驚愕しつつ悶絶。これであと10年は戦える。


永遠の森  博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

 ラジオドラマ「青春アドベンチャー」で聞いて以来、いつかはと思いつつ先に後日談の短編の方を読んじゃったりしていたのをやっと読了。ラジオでは美術品データベースに電脳的なものを介して接続するときに、人それぞれ「耳たぶを触る」といった癖のようなものがあるとの設定だったハズだけれど、原作を読むと「通常」ではそういったシーンが特になかったので、あれはラジオで「電脳空間に接続する」という描写を効果的に行う演出だったのかと今更ながら気づいて感激する。
 終章だけを扱っていたラジオドラマでも主人公の焦りや嫉妬が十分に感じられたけれど、小説では最初からずっと伏線が張られた状態で終章まで突入し、物語と主人公の感情の盛り上がり(まあ主人公的には落ち込み気味なんだけど)との一致が楽しめる。ラジオドラマ、また再放送しないかな・・・。


 冲方丁の描くパワーパフガールズ。「ここはおなじみ、ミリオポリス」で始まり「きょうもみーんな救われた、サンキュー、ケルベロス小隊!」で終わるほのぼのドラマではない。全然。物語の骨子は

 テロ対策 + 高齢化社会を維持するための児童労働 + 機械化治安部隊 = 義体化された少女達の戦いの物語。
(どんな式だ)

 それだけならまだしも、各キャラクターが義体化された背景がいちいち重めの上、「治安組織の広報活動」名目でメイド服を着て撮影会とか、ステキなものいっぱい入れすぎです。
 例の”/”と”=”を多用した「ヴェロシティ文体」で書かれていること、主役キャラクターが決して幸せとは言えない生い立ちであることなどからどうしても「マルドゥック・〜」と比べてしまう。ただこちらのほうがエンタテインメント向きというか、「仲間との絆」とか「もえ」を押し出していて、血みどろシーンが何とかなればアニメになりそうな雰囲気。
 血みどろシーンで感じたのだけれど、冲方先生は本当に人間を千切る描写がお好きなのだなあと思った(語弊)。


キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

 「では、水の結晶の話をしてあげよう」

 失われたキクユ族の暮らしを再現したユートピア惑星「キリンヤガ」。その秩序を守るために陰日向から村人を導く祈祷師コリバは、特に子供達に向かって部族の掟を説くのに色々と寓話を用いるのだけれど、そのくだりを読んでいて突然思いついた↑。
 伝統とか先祖代々とか、そういったものの何割かは確実に不条理からできていて、それらも含めて「部族の生き方」として不条理をそうと知りつつそのままに伝えようとするコリバと、彼の元で次代の祈祷師として修行していたンデミとが、その不条理を伝えることをめぐって袂を分かつことになる寂しさといったら。伝統と進歩との調和、個人と共同体の変遷など、この本1冊がそれらに関する寓話になっているかのような構成が静かな感動を届けるだろう。たぶん。

*1:文字が大きくなっているので実質減り気味?