「花咲くいろは」見た。

 東京でぼんやり暮らしていた女子高生・松前緒花は、ある日突然北陸の旅館で住み込みで働くことに。仕事に厳しいおかみ、くせのあるお客、なかなか心を開いてくれない板場の女の子などがいる中でも徐々に環境になじんでいき、内に秘めていた前向きさがやがて旅館全体の雰囲気も変えていく。

 といったあたりが前半部分のあらすじで、旅館業務の細部や緒花の前向きさといったものが丁寧に描写されていくんですね。舞台となる、青森盛美園のようなモダンな造りの旅館や、周囲の自然もすごくきれいに描かれていて(背景がきれいなのは最近のアニメでは珍しくないんですが)、見ているとすごく引き込まれていきます。

 だが、もともとはさびれていた旅館。最大の書き入れ時である地域の秋祭りの時期を最後に、おかみは旅館を閉めることを決意する。自分たちの好きな居場所を失いたくない従業員はおかみの意思に異をとなえ、集客に奔走して旅館を盛り立てようとする。しかし、その頑張りは空回りし、旅館の雰囲気もなんだがギスギス。

 そこで緒花が考えたのが、自分たちが本当に好きだったものは「この旅館にいること」なのか「この旅館で自分たち従業員とお客が作り出す空気」なのかってこと。ここに思い至ったおかみ・旅館の従業員は一丸となって旅館を切り盛りし、無事に秋祭りの時期を乗り切る。たくさんのぼんぼりで彩られたこの秋祭りシーンもきれいでした。

 で、長々とあらすじを書いてきたんですが、最終回で緒花が気がついて視聴者に提示された、「自分たちがいた好ましい場所を作り出していたのは、そこにいた人たちの『目標に向かって頑張りたいと思う、ざっくりした気持ち』です」っていうのがすごくグッときました。これは学生時代のサークルとおんなじだなあと。

 そういう心持で形成された場所っていうのはすごく心地いいのを知っている。程度の差こそあれ、みんな同じ目標を向いてる人が集まっていて、ツーカーで通じることもあるし意見の相違があっても話し合って妥協点を探れる。ただ、そういった場所は『目標』の喪失(この作品では旅館の廃業)でいつかは崩れ去ってしまう弱い場所でもあるんですよね。

 「花咲くいろは」では、その場が形成されるまでの流れから、そこがなくなっていくとしても『目標に向かって頑張りたいと思う、ざっくりした気持ち』を持ってみんながまた集まれるといいね、というさわやかな別れまでを丁寧に描いているのがすごく面白かったです。

 あと特にですね、寄りのカットの時に女の子の目元がほんのり桜色に染まってるキャラクターデザインと、豊崎愛生の泣きの入ったセリフにグッとくる人々へはおすすめです。